読了:「一瞬の風になれ」

当直中に「一瞬の風になれ(文庫版)」読了。

数年前の本屋大賞を受賞した作品。
くだけた文体とテンポのいい展開であっという間に読めてしまう。
ストーリーは陸上短距離競技に打ち込む主人公の高校生活3年を追うもの。いわゆる小説としての完成度という意味では正直どうかなと思う節もあるが、スポーツをしていた者、とくに陸上や水泳といった個人競技をやっていた自分のような人間には、非常に共感できる部分の多い物語ではないだろうか。
陸上や水泳といった競技はサッカー、野球などの球技と違って基本的に個人種目だ。しかし、実際に競技としてやってみるとわかるが、特に練習においてチームの存在が非常に大きい種目でもある。個人種目だけに自分自身をとことん追い込まない限り絶対に速くなれないし、結果も残せない。この「とことんまで追い込む」というのが一人ではそうそうできるものではなく、チームで支え合い、競り合うことで本当の意味で自分の中のすべてを出し切る練習ができる。
けれども難しいのは、こうして苦難をともにした仲間がそのまま自分のライバルになってしまう、というところだ。同じような練習をこなしている仲間は往々にして自分の直接的なライバルになる。チームとしての和は保ちながらもどこか緊張感のある関係。
そんなチームメイトと唯一完全に垣根を取り払ってともに戦えるのがリレーだ。普段微妙な関係にあるだけに、同じリレーメンバーとなって戦うリレーは心を強く高ぶらせる何かがある。僕も大学の水泳部のメンバーにそれを教えてもらった。

こうした個人種目ならではの心理的なアヤが、軽い、ややうわついた感のある文章のなかにしっかりと描かれているあたりは、さすがといいたい。